ススメ若人よ

2/4
前へ
/23ページ
次へ
「まぁ、そういっても、言葉のアヤだから」 言葉のアヤ。 そうはいったが、富田の目は本気で涼子を狙っている目だ。 その視線に寒気を感じた涼子は、咄嗟に話題を変える。 「部長、今日の分の書類仕上げちゃいました。ってことで、帰宅したいんですけど。いいですか?」 勿論、涼子が本気で言っているわけではない。 場を和ますための冗談であるが、涼子の一言にも、注意することなくチャンスとばかりに話に乗っかる。 「そうかい?仕上げちゃったんなら、カフェミーティングしようか」 「せっかく誘ってくださっても、こう見えて忙しいんですよぉ。ディナーだったら私空いてますけど。それ以外は忙しいで、すみません」 当たり障りのない断り方をしたつもりだったが、墓穴を掘ってしまった。 昨日、友人と話していたディナーの映像が浮かんでしまった。 これを逃す富田ではない。狙った獲物は逃さない。 「え?えっ!今夜でも行けるのかい?ディナーなら良いんだろ?」 後には引けなかった。 「は~い!リッツカールトンの最高級ディナーなら、喜んで行きますよ」 「よし!今日は頑張って、早く切り上げよう!」 「……あの、部長。最高級ディナーですよ?あの最高級のですよ?……」 「ははははは。わかってる、わかってる。任せてちょうだ~い」 ここが会社であるのを疑うような部長と涼子の会話。 独身である部長の富田は、涼子のことを大変気に入っている。 仕事のできる社員としてではなく、女性としてだ。 このことは、部署内全員が知るところだ。 男性社員には厳しい富田が、涼子相手だとだらしなく鼻の下を伸ばす。 そうさせている涼子を面白がる者も少なからずいる。 近藤もその一人だ。 富田の席から戻る途中の涼子に話しかけた。 「おぅ池田。今日も楽しそうだな……」 現在、この部署で、涼子の事を名字の池田で呼ぶのは、近藤だけだ。 配属された翌日から、涼子は、その性格と人当たりの良さもあり、すぐに名字はなく名前で呼ばれている。 それもあって、自分を呼んだのは近藤だと直ぐに分かり、その方を見た。 「あ、ひどいですよ近藤さん。……この部署で、一番の仕事ですよ。部長の相手って」 「はははは。確かに、あの世代のおじさんは不機嫌にさせたら面倒くさい。だけど、手のひらで転がしてんだもんな」
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加