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言われてしまうと、断り切れない可能性も感じていたからだ。
「今日は、ごちそうさまでした。これ以上長く引き留めても、彼女さんに悪いですよね。この辺で失礼したいと思います」
「あ、あぁ。今日はありがとうね。楽しかったよ」
富田は、それだけ言うとスッと席を立ち、紳士的な振る舞いで会計を済ませ店を出た。
店を出ると、涼子はすぐに帰ろうとしたが、富田がそうはさせない。
「涼子君。今度は、私から誘うよ。今回は、涼子君のリクエストに答えただけだからね」
「それは申し訳ないです。彼女さんが怒りますよ?」
涼子の言葉は聞こえていたが、構うことなく自分の意見を通す富田。
「もっと素敵なレストランを予約したいんだけどダメかな?」
「あ、あの……」
一切の感情を読み取られまいと、笑顔で付き合ってきた涼子の表情が少し曇った。
終始、涼子の笑顔だけを見ていただけに、その表情に富田は焦った。
「あ、ごめんね。強引すぎる男は嫌われちゃうな……ま、今日は楽しかったよ。考えといて」
「分かりました。じゃ、失礼します」
そういう涼子を富田は見えなくなるまで手を振り見送った。
最寄りの駅に向かい、歩いていると涼子の前を一人の男がふさいだ。
道をふさがれた涼子だったが、その表情は、富田に見せたものとは比べ物にならない笑顔だった。
「リッツカールトンでの苦役おつかれさん。大変だっただろ?」
涼子の笑顔につられ、笑顔で聞く近藤が近づいてくる。
その笑顔が、今の涼子にはとても嬉しかった。
「こ、近藤さん」
「ま、なんだ……ちょっと通りがかり……というか様子見に来た。きになったから」
「また誘われちゃいました」
「うん。だから自業自得って言っただろ」
「はい」
「何でもかんでも、頷いてんじゃねぇよ。人に嫌われたくないのは分かるけどさ」
「……」
返事をせずに俯く涼子の肩に、優しく手を置いた。
「ま、それが池田の良いところでもあるんだが……って、大丈夫か?」
「あ、あの…」
「酔ってんのか?無理しなくてもいいぞ」
「無理です……お姫様抱っこしてください」
「あぁ?そっか、酔ってんだな。酔い覚ましに歩くぞ」
一滴のアルコールも飲んでいなかった。
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