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待ってない
松田が去った後もしばらくベンチに座り、ただ空を見ていた近藤。
コンビニで煙草を買い、喫茶店に戻ったのは、閉店間際だった。
「すみませんね、今日はもう閉店で……って、近藤か」
店主である俊太郎は、一旦は見た近藤から視線を外すと再びグラスを拭き続けた。
「あれ?……祥子は?」
「お前なぁ……どんだけ経ってる?待ってるとでも思ったのか?」
自分に何も言わず帰ることなどなかった祥子がいない。
こういう初めての出来事と、祥子が近藤に振り向かなかったという松田の言葉が思い出され、不安がよぎる。
「えっと、帰ったとかないですよね?」
それだけで俊太郎には近藤が言わんとすることが分かった。
「あぁ。いい女ってのは、同じとこに留まらない。いつまでも待ってないもんだぞ」
「マジで帰ったってことっすか?」
「そうだが、正確に言うとアキが送っていった」
「え?」
「ちょっと話そう。今日は店じまいだ」
「説教っすか?」
俊太郎は、それには答えず、グラスを用意した。
「何飲む?」
「いや、何もいらないです」
「そうか。ま、黙って聞け。お前、苦しいだろ?」
「は?苦しい?」
「祥子ちゃんが結婚って、平気じゃないよな?」
「いや、祥子がそれを選ぶんなら仕方ないっすよ」
「な。仕方ないって思うんだろ?」
「まぁ、どうしようもないことっすから」
「暗い顔だな」
「腐れ縁ってやつっすよ。他の男と結婚するってのに、俺と出かけるなんてね」
「腐れ縁……か」
「俺、あいつに男として見られてないっすからね」
「そうかな?伝えたいことがあったんじゃないのか?」
「あの会話で伝えたいこと?」
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