待ってない

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「お前が鈍感すぎるから気付いてないだけだ。それだから祥子ちゃんを泣かせてしまうんだよ」 「俺が?分からん話っすよそれ」 そのどこか他人事のような返事と表情。 しかし、それがそうでもしていないとならないのを、俊太郎は気づいた。 「つらいよな近藤。好きな相手がなぁ……関心ないふりするしかない…か」 「いや、そ、そんなんじゃ…」  図星だった。 それでも、くびを縦には振らなかった。 近藤には、松田より祥子を幸せにできる自信がなかった。 いつか祥子の方から一緒になろうと来てくれるのだと甘い期待を抱いていた。 言わなくても、お互いが好きであると勘違いしていたと考えもした。 それ以上に、現実から逃げていた。 「……あいつは、他の男と結婚するんすよ。そんだけのことで……」 近藤の絞り出すような声は震えていた。 「いいのか?」 「……あいつが良いって言うんなら、俺は良いっす」 「後悔しないのか?」 「俺、祥子が困ることだけはしたくないんです」 思いつめ、無意識に煙草を手にする近藤。 煙が立ち上る。 祥子だけは自分を待ち続けてくれると思っていた近藤の考えも煙のように儚く消えた。 一服し、スマホを取り出した近藤は、一切の感情が消えたような顔だった。 ひょっとしたら祥子からの着信があるかもしれないと期待した。 それがないことで、祥子が離れていくように感じ、追い詰められた。 「おい近藤。大丈夫か?」 見かねた俊太郎が声をかけたが、近藤の表情が変わるわけではない。 「あ?あぁ……俺、帰るっすわ」 「お、おう。送ってくぞ」 「いや大丈夫っす。ガキじゃねぇっすから」 俊太郎の好意も、近藤には煩わしかった。 早く一人になりたかった。 店から出、誰にも会わない路地裏に入ると、すぐに祥子に電話した。 「あ、祥子?うん、俺。あ、いや、なんてか……」 「どうしたの?電話って珍しいね」 「あ、あぁ。こういうのは、文字で送るより、直接言った方が良いと思ったから」 「なに?」
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