4人が本棚に入れています
本棚に追加
そう聞かれても、なかなか言葉が出てこない。
言葉が出ずとも、祥子から急かすような言葉もない。
どれくらい沈黙が流れただろう。
「祥子。幸せになれよ」
この言葉に感情を精一杯込めた。
本当に幸せになってほしい。だからいつものように茶化すことはしない。
それを聞いた祥子の目からは大粒の涙が止めどなく流れた。
受話器の向こうで祥子が、すすり泣く。自分が泣かせておきながら、近藤もこみあげてくるものを抑えきれないでいた。
返事ができない理由も、近藤なりに分かってはいたが、返事を聞くまでは、伝わっていないのではないかと思い、つらいのは承知で、もう一度言った。
「しょ、祥子?聞いてんのか?幸せに…な」
「わ、分かってる……わかってるから……何回も言わないでよ……私……」
幸せにって言葉は、二人にとっては、さようならと同じ意味であると分かっていた。
最初のコメントを投稿しよう!