貪り

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 闇の中を手探りするような感覚で、僕は山へ向かった。  山間の盆地に住んでいる自分だが、近所の山では何か塩梅が悪かったので列車を使い遠くへ向かうことにした。  自殺しようというわけではない。  僕は異界の入り口を探しているのだ。  ぼんやり、漠然としているが元々がそのようなものなのだから、しょうがないだろう。このくらいでいいのだ。ツチノコを探すようなものだ。  一応下調べはしている。今から向かうあの山は、往古の昔から神隠しの伝説、噂の絶えない場所なのである。  古くは京の王朝時代から書物に収められている『異界遍歴』の物語もあるし、江戸時代には『天狗』の世界に迷い込んだある人物の話もある。  つい、二、三年前にも神隠しにあった少年の談話がその地方の新聞を賑わせたらしい。  なぜに談話が掲載されたのか?  少年は帰ってきたのである。  しかし大半の人が期待するような物語はなく、少年の証言は曖昧なものに終始し要領を得なかった。  しかも話の辻褄が合わなくなってくると、急に〝記憶がない〟と言い出し始め口を閉ざしてしまったという。  新聞を見て興味を持ったあるフリーのジャーナリストが、新聞とは別に単独インタビューを申し込み、聞き書きとして有料でネットに公開した。  評判が良ければ追加取材分を足して書籍化するらしい。今のところそのような動きはないようである。  僕はもちろん、ネットの有料分は読んでみた。  少年が神隠しにあっていた期間は五年半。長いと思うか短いと思うかは読者次第であろうが、子供が一人で山中で生きのびるには難度が高いだろう。  少年がいなくなったのは、人煙まばらな地域ではあるが人跡未踏の地ではない。見つかったのも同じ場所である。  それまでそこに、どうにかして住んでいたのなら発見されなかったのはおかしい。  少年は歳を取っていなかった……わけではなく、ちゃんと五年半分成長していた。  年齢からすると小学生が中学生にはなっている。そこも少年の語る話がいまいち信用されないポイントではある。  見つかった時、失踪当時の服装ではなかった。葉っぱや木の皮を使った原始的な衣類……でもない。  滝行をする行者のような真っ白な着物を着用していた。  まっさらで汚れもついていない。着物の生地も粗悪なものでもなく、それを差し引いても少年が山中で自分で作れるようなものとは思えなかった。  ごく自然に考えて誰かから貰ったものだと考えられる。  それを訊ねてみても、最初は天女の羽衣よろしく少年は〝滝の近くの木にかかっていたものを拝借したのだ〟と主張していたのが、では盗んだのか? と詰問されるや否や〝いや、滝壺に落ちていたのだ。そばには誰もいなかった〟と主張をひるがえす始末。  その後も証言を二転三転させるのだが、最終的にまずまず落ち着いたところによると少年はおよそ五年の間〝地下の国〟を彷徨していたという。
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