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序 光
絶望というものは一気に押し寄せる。
幸せの絶頂から奈落の底まで突き落とされた。
家もない、金もない、仕事もない。愛する人すらいない。
叩きつけるような雨が降る中、とうとうコーヒー一杯で粘り続けたカフェを追い出されてしまった。
これからどうすればいいのだろう。
体を蝕む寒さは気温のせいだけではないだろう。
生きる気力すらない。
このまま路上で野垂れ死ぬしかないのだろうか。
そう思ったときだった。
「風邪を引くぞ」
唐突に遮られた雨。
だれかがスッと傘に入れてくれたようだった。
一目でわかる有名ブランドのチェックが上品な傘。
少し背が低い少年だろうか。オーダーメイドらしきスーツがよくフイットした彼は中性的な顔立ちで声変わり前のようだった。
「どうした? 財布を忘れたのか? タクシーを呼んでやる。家はどの辺りだ?」
育ちがいいのだろう。彼は路上で困り果てた他人を放っておけないという様子だった。
思わず涙が出る。
将来を誓い合ったはずの相手に何もかも奪われたと言うのに、見ず知らずの少年がこんなにも手を差しのべてくれようとするなんて。
情けないことに限界だった。
とても成人して何年も経った男が人前で見せる姿とは思えないほど大声をあげて泣きじゃくった。
少年は何も言わずに優しく背を擦ってくれる。
そんな優しさに、余計に涙が止まらなくなった。
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