#02. First Encounter

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「私は弁護士をしています。と言っても実は長年海外で暮らしていて、日本で弁護士として活動し出したのは割と最近なんですけどね」 「海外暮らしが長いんですね。あ、どうりで……!」 私はあることに納得して思わず口しそうになり、途中で思いとどまった。 「どうりで、何です? 途中で口ごもられると気になりますね」 「いえ、大したことではないんです。海外が長いと伺ってちょっと納得したというか」 「納得? 何をですか?」 「その……久坂さん、私のこと初めから下の名前で呼ばれるので。海外だとファーストネームを気軽に呼ぶことが多いですよね。だからかと思ったんです」 そう、実は気になっていた。 彼は最初に電話で話した時から私を「東條さん」ではなく「香澄さん」と口にしていた。 初対面の男性にいきなり名前で呼ばれてドキッとさせられていたから、海外が長いと聞いて妙に納得したのだ。 「ああ、すみません。馴れ馴れしかったですね。不快でしたか?」 「あ、いえ、不快とかではなく。ただ、男性に下の名前で呼ばれることに慣れていなくて。お気になさらないでください……!」 婚約者である恭吾さんも一応私のことを下の名前で呼ぶが、実は「君」と言われることの方が多い。 恭吾さん以前に男性との交際経験がなく、小学校から高校まで女子校な上に音大も女性が多く、親族以外の男性と接する機会が極端になかった私は下の名前で呼ばれることに慣れていなかった。 「不快でないなら、これまで通りに香澄さんと呼ばせてもらいますね?」 「あ、はい」  「ところで、香澄さんは今日この後特に予定はないと言っていましたよね。もし良かったらちょっと付き合ってくれませんか?」 そう言うと久坂さんはふところから2枚の細長い紙を取り出して私に見せた。 視線を向ければ、それは何かのチケットのようだった。 「これは……?」 「映画のプレミアム試写会の招待券です。実は今日この後19時からなんですよ。知人から譲り受けたんですが、2枚あるのに一緒に行く相手がいなくて。映画はお嫌いですか?」 「いえ、好きな方ですけど」 「それならぜひ。人助けだと思って付き合ってもらえると嬉しいです」 またしてもにこりと笑顔で押し切られる。 この後予定がなく、映画は嫌いではないと言ってしまった手前、断りづらい。 それに内心、なぜかもう少し彼と話していたい気持ちもあった。
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