#02. First Encounter

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結局了承した私は、アフターヌーンティーを食べ終えると、久坂さんと一緒にカフェを出る。 ご馳走するという言葉通り、すべて久坂さんがクレジットカードで支払いをしてくれた。 その後、タクシーを拾い、試写会会場の映画館へ向かった。 映画館は大型商業施設内にあるところだった。 試写会の開場時間まで、商業施設のお店を久坂さんと一緒に少し見て回る。 雑貨や本屋を覗き、自分の気になるものを手に取ったり、久坂さんのおすすめを教えてもらったりした。 会話をしながらのウインドウショッピングは思いの外楽しく、不思議なことに初対面なのにだんだんと久坂さんと一緒にいることに馴染んでくる。 話す口調は徐々にお互いくだけたものになってきていた。 「へえ、音大卒業してるんだ。卒業して1年ということは香澄さんは24歳? 俺より7歳年下だね」 「久坂さんの方が年上だとは思っていましたけど、もっと上かと思いました」 「ん? それって俺が老けて見えるって言いたいの?」 「えっ。いえ、違います! その、すごく大人っぽくて素敵だという意味で……!」 「本当に? でもまあ、褒め言葉だと解釈しておくよ。ありがとう」 そんな会話をしているうちに開場時間になり、私たちは映画館に向かい、横並びの指定席に座った。 腰を下ろして隣を見れば、今日会ったばかりの男性がいて不思議な気分になる。 こんな展開、家を出た時には想像もしていなかった。  ……それになんだかデートみたい。 カフェでお茶して、ウインドショッピングをして、映画館で映画鑑賞して。 まさに恋人同士の休日デートみたいなことをしている気がする。 「気がする」というのは、私がこういうデートらしいデートをした経験がないから憶測だ。 恭吾さんとは、レストランで食事か、ホテルや私の家で夜を過ごすかのどれかが定番だ。 いつも忙しい恭吾さんだから、その過ごし方に不満があるわけではない。 とはいえ、少しこういうデートらしいデートにも憧れがあったから、今のこの状態は新鮮だった。 いや、正確にはこれはデートではない。 ただの人助けだ。 その人助けの一環である映画の試写会もとても楽しく大満足のうちに閉会となった。 明かりが落ちていた会場が明るくなると、少しずつ人々が退場していく。 私と久坂さんも人の流れが落ち着いた頃合いに立ち上がり、会場を後にした。
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