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商業施設から外に出ると、辺りはすっかり暗くなっており夜になっていた。
時刻は夜の21時過ぎだ。
夕方前にアフターヌーンティーを食べたものの、それ以降何も食べていなかったから少し小腹がすいている。
「香澄さん、まだ時間ある? 小腹も空いたし、さっきの映画の感想でも話しながら食事はどう?」
ここからタクシーで帰ろうと思っていた私だったが、そのお誘いは非常に魅力的だった。
少し何か食べたいのは私も同じ。
それに何より私も映画の感想を誰かと共有したい気持ちでいっぱいだった。
様々な伏線が張り巡らされたミステリー作品だったため、答え合わせがしたい気分なのだ。
「はい。私も感想を共有したいと思っていたのでぜひ」
「良かった。ちなみに香澄さんはお酒は飲める人?」
「それほど量は飲めないですけど1〜2杯なら大丈夫です」
「分かった。それならお酒を飲みつつ軽食がつまめるところがいいね。お店は俺が選んでしまって大丈夫?」
「あ、はい。もちろんです。ありがとうございます」
流れるようなスムーズな会話で食事に行くことが決まった。
ここからまたタクシーで移動することになったため、私はその前にお手洗いに行かせてもらう。
その間に久坂はお店に予約を入れてくれたようだった。
タクシーに乗り込み、しばらくののちに着いた場所は私もよく知る場所。
なにしろ昨日来たばかりだ。
「香澄さんと食事するならここが最適かなと思って。なにしろ俺がスマホを落として、香澄さんが拾ってくれた場所だからね」
このホテルの最上階にあるバーを予約してくれたらしい。
久坂さんはにこりと笑い、タクシーを降りようとする私に手を差し出す。
海外が長いというだけあって女性のエスコートをし慣れた振る舞いだ。
見目が良い久坂さんがすると非常に絵になるし、まるで自分がお姫様にでもなったかのような錯覚に陥ってしまいそうだ。
マナーとしてこうしてくれているのだろうから断るのは失礼だろう。
私は差し出された手にそっと自分の手を重ね、彼の手を借りてタクシーから降りる。
「じゃあ行こうか?」
促されて一緒にエレベーターの方へ向かうのだが、私はこの時非常に混乱していた。
なぜなら先程重ねた手が未だに離れていないからだ。
むしろ握り込まれている。
何食わぬ顔をした久坂さんは繋いだ手を引くようにして歩き出したのだ。
……えっ、これエスコートじゃないよね……? どちらかと言えば手を繋いでいる状態?
困惑と恥ずかしさで、心臓がドキドキドキとうるさい音を鳴らし出す。
すっかり気を許し、映画の感想を語りたいからと気軽に食事に応じてしまったが、今更ながらに男性と二人きりなのだという事実を私は思い出した。
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