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恭吾さんとの1年で、男女交際というものを身を持って知り、結婚への不安も薄らいだ。
残念ながら恋情というものは分からなかったけど、恭吾さんのことは好意的に感じている。
仕事に真面目で、人となりも誠実だ。
9歳年上だから頼りにもなる。
外見も、チタンフレームのハーフリム眼鏡をかけた知的でクールな顔立ちで、一般的にルックスが良いと言われる男性だ。
欠点らしい欠点もなく、政略結婚の相手として非の打ち所がない。
人によっては、忙しすぎて構ってもらえない男性は嫌だと思うかもしれないが、私は医者家系で生まれ育ったのでそれも当たり前のことと感じている。
だから、繰り返すが、恭吾さんと結婚するのは全然嫌ではないのだ。
ただ……
……一度くらいハメを外してみたい。
結婚を前にして私の心の奥底にそこはかとなく漂うのは、そんな少しの好奇心だ。
これまで品行方正に父の言う通りに生きてきたから、少し道を踏み外してみたい気持ちが燻っている。
特にその想いが大きくなってしまったのは、この前偶然見てしまったアレのせいだ。
アレとはなにか?
――ティーンズラブ漫画である。
◇◇◇
それは先日、学生時代からの友人に会った時の出来事だ。
友人は弁護士事務所でパラリーガルをしていて、担当している事件の情報収集の一環で、その日彼女はたまたまティーンズラブ漫画を持参していた。
それがどんな漫画なのか全く知らず、パラパラっとページをめくった私は思わず目を見開いて固まってしまうほど驚いた。
なにしろ漫画の中であられもない姿の男女が絡み合っているのだ。
男性向けにそういった漫画や小説があることは知識として知っていたけど、これは女性向けだと友人から聞いてまたしてもビックリした。
言われてみれば、全体的に絵が綺麗な上に、視点は女性であり、男性キャラクターは容姿が良くカッコよく描かれている。
乱れる男女の描写を目にして、恥ずかしくて思わず赤面してしまうのと同時に、私の心臓はドキドキと脈打つ。
なぜか漫画から目が離せず、私が目をパチパチしながら見入ってしまっていると、「お嬢様育ちの香澄はTL漫画なんて読んだことないよね」と友人は楽しそうに笑った。
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