#01. First Contact

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だけど、婚約者である恭吾さんとの行為ではそれは叶わない気がしていた。 他の男性を知らないから断言できないが、彼は割と淡白な方なのだと思う。 甘い言葉や言動はなく、欲を吐き出すように淡々と私を抱く。 このまま恭吾さんと結婚すれば、当たり前のことだが、私は彼以外に抱かれることはない。 そんなことをすれば不倫になってしまうし、周囲にも迷惑が及ぶ。 でも、もし今ならば? 結婚する前なら法に触れることはない。 恭吾さんには少し申し訳なく思うけど、たった一度きりだ。 知られないように自分の胸の内に秘めて墓場まで持っていく心づもりなら、許してもらえないだろうか。 結婚したら、そのぶん彼に尽くすと誓ってもいい。 つまり、「一度くらいハメを外してみたい」という私の想いは、言い換えると、「一度だけでいいから他の男性に抱かれて乱れてみたい」というものだった。 ◇◇◇ ふと気が付けば、お湯につかっている私の手足の指がシワシワにふやけている。 すっかり物思いに耽っていてずいぶん長風呂をしてしまっていたようだ。 私は手早く髪や身体を洗い、バスルームから出て身支度を始める。 お風呂に入ったせいか、先程以上に目が冴えてしまっていたため、もう一度ベッドに潜り込むという選択肢はなしだ。 ちょうど朝食に良い時間だったこともあり、着替えてホテルのラウンジに行くことにした。 ルームサービスを頼む手もあったけど、なんとなくこの広い部屋で一人で食べるのは寂しかったからだ。 ラウンジは平日の朝ということもあり、スーツに身を包んだ人が多い。 席に案内され、朝の日差しが差し込む明るい店内で、ホテルご自慢の和洋食ビュッフェをいただく。 ここのホテルのこのふわとろオムレツと焼きたてパンは相変わらず最高に美味しい。 人の話し声や食事の音が混ざり合ったザワザワとした騒めきも程よく、ゆったり流れるBGMと合わさり心地良い空間だ。 美食に舌鼓を打ちつつ、のんびりとした心地で朝食を楽しんでいたその時だ。 その爽快な朝の空間を遮る電子音が私の耳に飛び込んできた。 スマートフォンの着信音だ。 確認したが私のものではない。 他の誰かのものだ。 着信音なんて今の世の中聞き慣れたものだから私も普段なら気に留めない。 だけど、一向に鳴り止まないというのなら別だ。 その音は誰かが止めることもなく、私の近くでずっと鳴り続いていた。 さすがに途中から気になって、つい辺りをキョロキョロと見回してしまう。 そうして気付いた。 私の隣の席の椅子の下にスマートフォンが落ちていて、それが鳴っているのだ。 たぶんホテルスタッフも落ちていることに気が付かなかったのだろう。 今も辺りの騒めきに紛れて、私以外の人は特に気付いていない様子だった。
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