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そして三波がこの状態なら、
「ねえ、東郷くんはどうなったの? 結局、あの襲ってきた人たちはどうなったの?」
と詰め寄るメイを、北斗が「まあまあ」と宥めた。
「メイにはちゃんと説明しますよ。こんなことに巻き込まれたのも、全部、三波のせいですからね」
北斗は、三波を放り投げるようにおろして、
「まずは夕ご飯にしましょうか。食べながら、ゆっくりお話しすればいいから」
と微笑む。
すると床に転がった三波が、大きく震え上がった。
あきらかに怯えた様子をみせた。
なぜだろう。
北斗はただ笑っただけなのに。
三波は、北斗の笑顔の向こうに、いったい何を見たというのか。
ふと、『イヤな臭い』の正体がわかった気がした。
三波の言う、第六感が働いた時に漂う危険でスパイシーな臭い。
危ない人間が放つ刺激的な臭い。
今その臭いを放ちながら北斗は、
「今夜はキムチ鍋にしましょうね」
と材料の入ったレジ袋を掲げてみせた。
「はい、どうぞ」
と、取り分けてくれた小皿からは、ほかほかと湯気があがっている。
「いただきます」
食べ始めたのだが、三波だけはまだ眉をねじ曲げていた。
見ると、三波の皿には豆腐しか入っていない。
もちろん、北斗のイヤガラセである。
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