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1 浅草を歩く
佐藤 杏奈が浅草駅の改札をでて、待合室についたのは集合時間二分前だった。
置いていかれずにすんだ、と安堵する。周囲を見渡すと、ウォーキングに参加するだろう人達が手持ち無沙汰にしていた。スマートフォンに目を落としたり、待合室の掛け時計を見つめたり。
三月上旬の空気はまだ肌寒い。
部屋には暖房が効いていて、杏奈は一息ついた。十一月の大学指定校推薦入試を終えた杏奈は四カ月間、このウォーキングクラブに参加していた。
一つの駅の周囲を四キロ程度、ぐるりと回って元の駅に着く。休憩も入れて、約一時間半程度のウォーキング。ちょっと長めの散歩と言った方が適切かもしれない。
会長である小野 哲也が号令をかけるのを待っていると、右脇をくすぐられた。何度か経験があることなので、犯人のあたりをつけながら後ろを向く。やはり、南 夏希のいたずらな笑顔がそこにはあった。
「杏奈ちゃん相変わらず、反応が無くて面白くない。うちの園児だったら、大声をあげて駆け回るんだけどな」
「私、来月に大学生になるんですよ。この歳で叫びながら、駅を走っていたら通報されます」
杏奈が口を尖らせると、夏希は両手を合わせる。
「ごめんごめん。でも、私にとって杏奈ちゃんは可愛い園児みたいなものよ」
幼稚園で働いて三年目になる夏希は、このクラブでは杏奈の姉みたいなものだった。
ウォーキング中は連れだって、他愛ない会話をしながら歩く。インターネットでこのクラブを見つけて、初参加した時。緊張の面持ちでいる杏奈に話しかけてくれたのが夏希だった。
とにかく優しくて気遣いができる。加えて、職業柄なのか全体を観察して注意喚起もできた。
女子高生である杏奈に、興味本位で声をかける男性参加者もいたが、「この子は恋愛目的で参加しているんじゃないから」と守ることもあった。
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