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退治……の、準備
「師匠、どうしたらいいですか」
防御壁に反射する龍の炎を灯りがわりに、師匠の様子を観察しながらポケットから恐る恐る引っ張りだす。
「あら?」
淡い水色の防御壁の中で師匠は目を回している。これでは役に立たな……いや、不慣れな戦闘がさらに不利になる。
「えー……とにかく師匠おきろ!」
ーーえーい!
ピカピカ、と何かが光った。
「師匠!」
「わっ、なんたる乱暴な! 気絶した者に物理魔法をかけて気付をしてはならん!」
そんなつもりはなかったんですーと、エルディーナは訴える。
魔力のコントロールがうまくできず、ちょっと殴るつもりがハンマーが、がつんと落ちてしまっただけなのだ。だが師匠は、白いふさふさの眉毛を逆立ている。本来のサイズなら大変怖いが今のミニサイズ師匠は怖くもなんともない。むしろ、可愛い。
「で、師匠。あれをどうしたらいいのかわかりません」
だが、その師匠がぴょんぴょん飛び上がってエルディーナの背後を指差し、何やら喚く。小さな声を聞くのは一苦労、エルディーナは師匠の体を摘んで自分の顔の前にぶら下げた。これなら師匠の声も聞こえるし顔も見える。
「きーっ、師匠を摘んでぶら下げるとはなんたる無礼者かっ!」
「だって指示が聞こえないんですもの!」
「くっ……仕方がない。それより防御壁がそろそろ壊れるぞ。杖を構えるとか魔法を詠唱するとかっ……!」
「え、え、え!」
わたくしがやるのですか? と、首を傾げる弟子に「当たり前じゃ!」と師匠が頷く。
「ぎゃ、杖をこちらに向けるでないっ! 敵はあちらじゃ! はよう!」
「ひえーん、龍が睨んでるこわーい!」
エルディーナが動揺するものだから、杖からでたらめな魔法が噴き出す。それらは防御壁をすり抜けて龍に襲いかかり、龍の怒りがたちまち膨れ上がる。
がつん、がつん、と、龍が防御壁に体当たりをはじめた。
「えーん、こわいよー!」
「あっ! こら、この程度で泣くでないぞ、魔道士エルディーナ」
大きな紫の目からポロポロと涙が溢れ、絹のようなサラサラの髪が涙で頰に張り付く。しかし三国一の美女の誉れ高い彼女、泣き顔ですら美しいーーが、龍には通用しないのである。
何かを声高に叫びながら師匠は自分の杖を振った。無詠唱で立て続けに魔法を放ち、防御壁のヒビを塞いで強化した。
「わあ、さすがです……師匠」
「魔法の防御壁はいずれ消える! ほら、今のうちに対策を練るぞ」
「はい」
師匠は、ふー疲れた、とこぼして杖を一振りして弟子のポケットへと戻った。
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