幻の今、幻の私

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キュッキュッと雪の声がする 振り返ると 子供の頃の私がいる 覚束ない小さな足で 汚れない雪を踏みしめて     <それは幻>     <遠い日の幻> 「行かないで」 「ここにいて」 遠去かる自分に 私は懇願する 「私を置いて行かないで」 跪いて泣き叫ぶ けれど私は 私を置いて 行ってしまう 汚れを知らない私は     <それは幻>     <遠い日の幻> 汚れてしまった私を許さない 「幻はおまえだ」 「消えるのはおまえだ」 「汚れてしまったおまえのほうだ」 もう一人の私は 氷のように冷たい目で 汚れた私を一瞥して 行ってしまう 私がどうやっても辿り着けない どこか遠い処へ 取り残された私は 脆く粉々に砕け散り 消えてしまう      <これは幻>      <私のほうが幻> だから 消滅する 私のほうが 幻  だから 「付記」 雪が泣く 「私を返して」 「壊れてしまった私を返して」 「元に戻して」 そう言って 足跡だらけの 雪が泣く
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