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今日は干されている。
「あー」
窓際から、とりの声が聞こえてくる。
「なかみが寄っちゃうー」
私の部屋は、日当たりが良い。
それはちょっとだけ自慢だ。
多少駅から遠くても、日当たりのいい部屋という条件でいろいろと探したのだ。夏の暑い日はちょっとそれを後悔することもあるけれど、やっぱりこうして洗濯物を干すときは、日当たり最高、この部屋にしてよかった、と思う。
「あー」
とりの声がまたした。
「あんこがでちゃうー」
うるさいなあ。
私はピンチハンガーにさかさまに吊られているとりに声をかける。
「だいぶ乾いてきたでしょー?」
「うん。からだの中で小さな生き物たちの断末魔の声がするよー」
「それはなにより」
ふかふかのからだは、ダニなどにとっても格好の住処になる。今日はとりのお風呂(洗濯)の日だ。
とりはこれが嫌いで、特に干されている間はずっと何事か喋っている。
「あー。あたまに血が上る―」
いや、君の身体に血は流れていない。綿が寄っちゃうという意見ならまだわかる。
ただ単に暇なのかもしれない。
隣で、これもさかさに干されたねこは、ぶらんぶらんと自分のからだを振って遊んでいる。
「ねこくん、カーテンレール壊れちゃうから、ほどほどにね」
「はーい」
ねこが返事する。引っかける場所に乏しい我が家では、ピンチハンガーをカーテンレールに引っかけているのだ。
日が落ちて、すっかり乾いた二人は、ピンチハンガーから降ろされるとさっそくお互いの身体の見せ合いっこを始める。
「うわ、とりさん真っ白! 目に刺さる!」
「ねこくんこそ白いよ! 眩しい!」
全身が白いとりはもちろんのこと、三毛柄のねこも白地が大部分なので、洗濯が終わった後はいつもこうして互いの白を称え合っている。
「よかったねー」
そう言いながら私がコーヒー片手に腰を下ろすと、二人はきゃああ、と悲鳴を上げながら私から離れていく。
「黒! 危ない!」
「コーヒーこっちに飛ばさないでよね、せっかくきれいになったんだから!」
「はいはい」
その辺の広告を盾代わりにして文句を言う二人を見ながら、私はコーヒーをすすった。
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