今日は干されている。

1/1
34人が本棚に入れています
本棚に追加
/45ページ

今日は干されている。

「あー」  窓際から、とりの声が聞こえてくる。 「なかみが寄っちゃうー」  私の部屋は、日当たりが良い。  それはちょっとだけ自慢だ。  多少駅から遠くても、日当たりのいい部屋という条件でいろいろと探したのだ。夏の暑い日はちょっとそれを後悔することもあるけれど、やっぱりこうして洗濯物を干すときは、日当たり最高、この部屋にしてよかった、と思う。 「あー」  とりの声がまたした。 「あんこがでちゃうー」  うるさいなあ。  私はピンチハンガーにさかさまに吊られているとりに声をかける。 「だいぶ乾いてきたでしょー?」 「うん。からだの中で小さな生き物たちの断末魔の声がするよー」 「それはなにより」  ふかふかのからだは、ダニなどにとっても格好の住処になる。今日はとりのお風呂(洗濯)の日だ。  とりはこれが嫌いで、特に干されている間はずっと何事か喋っている。 「あー。あたまに血が上る―」  いや、君の身体に血は流れていない。綿が寄っちゃうという意見ならまだわかる。  ただ単に暇なのかもしれない。  隣で、これもさかさに干されたねこは、ぶらんぶらんと自分のからだを振って遊んでいる。 「ねこくん、カーテンレール壊れちゃうから、ほどほどにね」 「はーい」  ねこが返事する。引っかける場所に乏しい我が家では、ピンチハンガーをカーテンレールに引っかけているのだ。  日が落ちて、すっかり乾いた二人は、ピンチハンガーから降ろされるとさっそくお互いの身体の見せ合いっこを始める。 「うわ、とりさん真っ白! 目に刺さる!」 「ねこくんこそ白いよ! 眩しい!」  全身が白いとりはもちろんのこと、三毛柄のねこも白地が大部分なので、洗濯が終わった後はいつもこうして互いの白を称え合っている。 「よかったねー」  そう言いながら私がコーヒー片手に腰を下ろすと、二人はきゃああ、と悲鳴を上げながら私から離れていく。 「黒! 危ない!」 「コーヒーこっちに飛ばさないでよね、せっかくきれいになったんだから!」 「はいはい」  その辺の広告を盾代わりにして文句を言う二人を見ながら、私はコーヒーをすすった。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!