34人が本棚に入れています
本棚に追加
/45ページ
今日はなんだか優しい。
はあ、とため息をつく。
気が重い。
別にいつもだって、やったぜ今日も楽しみだ、なんて思いながら仕事に行くわけではないが、それにしたって今日は気が重い。
完全に自分のミスによって周囲に迷惑をかけてしまった。
そのせいで昨日も遅くまで会社に残ったが、続きは今日また改めて、ということになって帰された。
うるさ型の上司が昨日たまたま不在だったこともあって、本格的なお説教は今日これから。
やってしまったことは仕方ないので、説教だって甘んじて受けるけれど、でもやっぱりそのことを考えるとお腹の下の方が、ずん、と重くなって、食欲もなくなる。
「どうした、マキ」
最近お気に入りの、朝日の差し込む窓辺で日向ぼっこをしていたとりが、私の今朝何度目かのため息に振り返る。
「元気ないな」
「まあね」
とりに話しても仕方ないのだけど、誰かに聞いてほしくて話してしまう。
「昨日ミスしちゃったから、今日怒られなきゃいけないの」
「あー、昨日遅かったもんな」
とりはふこふこと頷く。
「仕事たいへんだな、マキ」
「うん。大変なの」
「辞めてもいいんだぞ」
「辞めたらどうやって食べてくのよ」
「かすみはタダだぞ」
「私はかすみじゃ生きていけません」
「そっかー」
とりは、ふむ、と考えてくちばしの下に手羽を持っていく。
「人間は不便だのう」
「人間に作られたくせに何言ってんの」
「まあしっかりと怒られてきなよ」
とりはそう言って、また窓の方にふこりと向き直る。
「帰ってきたら、たくさん慰めてあげるから」
うそつけ。
帰ってきたら大体ねこと一緒に遊んでて、私のこととか忘れてるくせに。
そう思ったけど、なんだかとりの優しい言葉が嬉しかった。
「ありがとう」
「ましてー」
雑にとりが返事する。それも力が抜けるきっかけになった。
「いい天気ー」
そう言いながら、ねこが窓辺によじ登ってきた。
「ぜったい今日、いいことあるよ。こんないい天気だもん」
目をキラキラさせて(……るように見えた)ねこが言う。
「そうかもね」
そう答えて、私は顔を洗うために立ち上がった。
最初のコメントを投稿しよう!