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今日はお出迎えをする。
今日はお給料日だ。
ちょっと奮発して、前から行ってみたかったおしゃれなお店で夕ごはんを食べて帰ってきた。
「ただいまー」
ドアを開けると、「おかえりー」という二人の元気な声。
「ぬお」
ちょっとびっくりして電気をつけると、珍しく玄関まで二人が出迎えに来ていた。
「二人とも、どうしたの」
「でむかえ」
「だって今日は」
「ねー」
二人はふこふこと身体を寄せ合いながら、こっちをちらちらと見る。
「あー、うん。そうだね、今日はこの日だもんね」
私がバッグからがさがさと音を立てて袋を取り出すと、二人はきゃああ、と歓声を上げる。
「はい、今月号」
「きたー」
「向こうで見よう!」
とりが雑誌を器用に頭に乗せて部屋の方に持っていく。ねこがぴょんぴょん跳ねるようにしてそれについていく。
給料日だから待っていたわけではないのだ。
なぜか二人は月刊の旅行雑誌に強い興味を示していて、その発売日が給料日とたまたま同じ日なのだ。
旅行になんか行けないくせに。人の前に出ると物言わぬぬいぐるみに戻るんだから。
「日帰り温泉特集だって!」
「すごい! 日帰れる!」
日帰れるって何だ。
というか、いくら動けるとはいえ彼らの通常時の歩行スピードは歩きはじめの二歳児とかとさして変わらないので、人間様のようには日帰れないだろう。
「あー、ここ行ってみたーい」
「こっちもー」
楽しそうな声がする。
確か最初は、気まぐれに買って帰った旅行雑誌をとりが読み始めたのがきっかけだった気がする。
旅行会社の広告ページに至るまで、全ページを舐めるように熟読していたものだ。
その日から、うちには私の読まない旅行雑誌が積まれている。
「きれいな景色だねー」
「見てみたーい」
私は靴を脱ぎながら、たまには温泉も悪くないかもな、なんて思い始めていた。
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