今日は実況している。

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今日は実況している。

 今日は寝坊してしまった。  昨日の夜、ネットで見ていた海外ドラマをキリのいいところまで見ようかと思っていたら、全然キリの良いところが訪れずに引っ張られ続け、気が付いたら日をまたいでいたせいだ。  慌てて寝ようとしたのだけれど、ドラマの展開が頭の中でぐるぐる回って、なかなか寝付けなかった。  結果、いつもよりも三十分も寝過ごしてしまった。 「マキ、今日は遅くてもいい日かー」 「多分寝坊してるんだと思うよ、とりさん。昨日、夜更かししてたもん」 「朝起きれない子は、夜更かししちゃだめだよねえ」 「だめだめー」  そんなのんきな会話が夢うつつの頭に聞こえてきて、私はその意味するところに気付いてはっと目を覚ました。時計を見て、「うそでしょ」という言葉が勝手にこぼれた。 「あ、マキ起きた」 「その時間は本当です」  とりとねこがふこふこと近付いてくる。 「え、ちょ、どいて」  慌てて飛び起きて洗面所にダッシュする私の足に踏まれそうになって、とりとねこは、きゃああ、と悲鳴を上げながら逃げ惑う。 「あぶないなあ、踏まないでよー」 「寿命がちちんだー」  わーわー言ってるが、今は二人になんて構っていられない。  パジャマを脱ぎ捨て、全速力で髪をとかして顔を作り、それからようやくトイレに駆け込む。 「おーっと、マキ選手。はやい」 「今トイレに駆け込みました」 「いつもとルーチンが違います。あせっているのかー」 「果たしてこれが吉と出るのか凶と出るのか」  ああ、うるさい。  そういえば最近二人でよくスポーツ中継を見ていた。  プロスポーツとはてんで縁のないマイナー種目の運動部出身の私は、そういう番組に全然興味がないのだが、二人はいつも楽しそうにきゃあきゃあ言いながら見ている。  見終わった後で、どっちが勝ったのか聞いたら、二人そろって首を傾げていた。なんだそれは。  私がトイレから出ると、また二人が嬉しそうに実況を始める。 「はやい、これははやいですが、解説のとりさん」 「そうですね、それでもいつもより15分押しています。朝ごはんは絶望的でしょう」 「あとはいつも通りの電車に乗れるかどうかの勝負ですね」 「ええ、せめてその一本あとまでにとどめないと、厳しいですよ」 「靴はヒールを避けるべきでしょうね」 「スリッパをお勧めします」  誰がそんなもん履いて出勤するか。  それでも何だか自分で自分が笑えてきて、手早く着替えを済ませると、ヒールのないぺったんこの靴をつっかけて、私は「いってきます!」と叫んでドアを開けた。
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