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今日はサスペンスドラマを見ている。
つけっぱなしにしていたテレビで、いつの間にかサスペンスものの二時間ドラマが始まっていた。
別に見たい番組があるわけじゃなくて、部屋に音がないのが寂しいから、つけたままにしているだけのテレビ。私の目は、もっぱらスマホを見ている。
そんな悪い視聴者の典型みたいな私とは別に、うちには熱心な視聴者が二人いる。
「きっとあの人がこれから殺されるんだよ」
「殺されないと始まらないもんね」
ふかふかの身体で、やけに物騒なことを言い合っているとりとねこ。
わくわくしているのが、背中から伝わってくる。
いつも思うけど、本当にすごく楽しそうだ。
今どきこんなに真剣にテレビを楽しんでいる人が、果たして日本にどれくらいいるのだろう。
そして、ごめん。あの人は主人公だから、多分殺されないと思う。
よっぽど攻めた脚本なら別だけど。
「あれ、別の人が殺されたね」
「裏をかいてきたね」
案の定だった。明らかに殺されそうな感じの人が殺された。とりとねこは勝手に裏をかかれている。
でも二人とも全然気にしてない。
さっき自分たちで言ったことも、多分もう忘れてる。
「ああ、ねこくん。今の人が怪しいね」
「そうだよね。わざわざ出てきたのに、全然大したこと言わなかったもんね。怪しいよね」
うん。大したこと言わなかったのは、あの人がすごいチョイ役だからだと思う。
見たことのない地味な役者さんだし、もしもあの人が犯人だったら、かなり攻めたキャスティングだ。
「あー、あぶない。そこは警察に通報しないと」
「そうだよね。一般人が一人でそんなところに行っちゃだめだよね」
「きっと危ない目にあうよ」
「あうね」
存分にサスペンスを楽しんでいるようなので、私はまたスマホに目を戻した。
この間一緒に飲んだ友達が、今度知り合いの男の人と飲み会をしようと誘ってきている。
いわゆる合コンみたいなものだろう。
めんどくさいな。
お酒は好きだけど、知らない人と気を遣って飲みたくないな。
適当にはぐらかして別の話題を振ったりしているうちに、やっと諦めてくれたようだ。
ちょっとだけ申し訳ないので、どうしてもメンバーが足りなかったら声かけて、と付け足しておいた。
ふう。やれやれ。
なんだか一仕事終えた感じで、顔を上げて時計を見ると、ずいぶん時間が経っていた。
ああ、もうそろそろ寝ないと。
テレビに目をやると、崖の上で犯人が自分の罪を告白していた。
あれ。犯人、さっきのチョイ役の人だ。
「やっぱりこの人だったねー。ぼくは最初から分かってたけど」
「さすがとりさんだー」
テレビの前で、とりとねこがふこふこと身体を寄せ合って、楽しそうに話している。
……攻めたキャスティングだな。
最近はそういうものなのかな。よく分からないけど。
私はお風呂に入るために立ち上がった。
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