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今日はスマホの画面を見ている。
今日も今日とて、私はぼうっと海外ドラマを見ている。
最初は面白かったのだけど、登場人物が増えてきて、誰が誰だかだんだん分からなくなってきた。海外の名前、覚えづらい。
しかもこのドラマ、さらに続編と続々編があることを知ってしまって、ちょっと心が折れかけたけど、それはそれとして一応今回のシリーズの最後までは見ようと思っている。
目は画面を見ているけれど、手は暇なので、いつもはちょこちょことスマホをいじっているのだけど、今スマホさんはちょっと離れたところのコンセントで充電していて、そこでとりとねこに絡まれているので、手元にない。
「うひゃー、見てよ。かわいいー」
「こっちもかわいいよ、ほらほらー」
とりとねこがスマホを囲んで嬉しそうに歓声を上げている。
「ほんとだ、かわいいー」
「そっちもかわいいねー」
「ちょっと、勝手にスマホ使わないでよー」
ドラマを一時停止して、私はとりとねこに声をかけた。
「えー?」
とりが返事の代わりに背中をふこりと揺らす。
おかしいな、あいつらのふこふこの手じゃスマホは反応しないはずなのに。
二人は私の言葉なんてお構いなしでスマホを覗き込んでいる。
「かわいいー」
「見て、この角度。すてきー」
……ああ。なるほど。
私は理解した。
この子たち、スマホの真っ暗な画面に自分たちの姿を映して、それを見てかわいいと騒いでいるのね。
自分がかわいいと感動できる。幸せなけものたちだ。
私はまた再生ボタンを押してドラマを見始める。
やっぱり手持ち無沙汰なので、昨日郵便受けに入っていた投げ込みチラシを手に取り、何となく鶴など折ってみる。
昔はよく折ったものだ。
もう頭ではなく手が覚えているので、ほとんど手元を見なくても勝手に折れてしまう。
折り上がった鶴をそこに置いてドラマを見ていると、「あー、かわいかった」「堪能したね」とかなんとか言いながら、とりとねこが近付いてきた。
「あっ!」
とりが突然大きな声を上げたので、私は思わずまたドラマを止める。
「どうしたの」
「僕がいる!」
とりがふこりとした手羽で折り鶴を指していた。
「ほんとだ!」
ねこも叫ぶ。
「とりさんだ!」
いやいや。
いやいやいや。
「これ、マキが作ったの!」
「うん、まあ」
「すごーい! ありがとう!」
とりが折り鶴を持って、部屋の隅の小さなダンボール箱の方へ走っていく。
あ、自分の大事なもの入れにしまうつもりだ。
「そっくりだね!」
嬉しそうに言いながら、ねこもとりの後を追う。
いやいやいや。
あなたたち、さっきスマホで自分たちの姿を見てたじゃないですか。
折り鶴の直線も尖ったところも、何一つないふこりとした身体じゃないですか。
そうは思ったけど、あまりに嬉しそうなので言い出せなかった。
諦めて、私はまた再生ボタンを押した。
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