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今日はころころと転がっている。
どうしよう。
久しぶりに、こんな気持ちになっている。
どうしよう。
頬が火照っているのは、お酒を飲んだせいばかりではないと思う。
ぶるり、とスマホが震えて、その人の名前が表示される。
そこに書かれたメッセージに、私はまた、どうしよう、と思う。
先日さらりと断ったはずの飲み会に、やっぱりどうしてもメンバーが足りないから来て、と友人に文字通り泣きつかれて、仕方なく私は参加することになってしまった。
義務、の二文字だけの飲み会のはずだった。
見かけたままで止まっている海外ドラマの続きも見ないといけないし、とりがまた部屋の隅を不法占拠してとり帝国を建国しようとするかもしれない。
だから、さっさと帰りたかった。
けれど、行くと言ってしまったものは仕方ない。
友人の顔を立てて、国民の義務を果たそう。
最低限のおめかしをして、私は飲み会に臨んだ。
そうしたら、その飲み会が意外にも結構楽しかったのだ。
最初からハードルが下がり切っていたせいかもしれない。
合コンだ、と変に空回りする人もいなくて、かといって、妙に斜に構える人もいなくて、飲み会は何だか和気あいあいと進んだ。
その中で、途中から隣に座った男性と盛り上がってしまった。
終わりころは、その人とばかり話していたような気もする。
二次会に行こう、と騒ぐ人がいないのも好印象半分、拍子抜け半分。義務とか言ってた私がこんなこと言うのも図々しいけれど。
楽しかったんだから、仕方ない。
帰りの電車の中で、連絡先を交換したその人からメッセージが届いた。
今度また一緒に食事でも、と誘われた。
そうですね、ぜひ、なんて社交辞令混じりに答えたけれど。
どうしよう。
本当に、どうしよう。
ちょっと、好きかも。
そんなことを考えながら、部屋のドアを開けると、いきなりとりが転がってきた。
「きゃあ」
思わず悲鳴を上げると、とりがふこりと立ち上がった。
「あ、マキが帰ってきた」
「おかえりー」
ふこふことねこも寄ってきた。手にメジャーを持っている。
「とりさん、そこですねー」
「今のは無しだよ、ねこくん」
とりが手羽をふこりと振る。
「マキが来たので、途中で立ち上がっちゃったからね」
「そっかー。じゃあ参考記録だね」
「……なにやってんの」
とりあえず聞いてみると、二人がふこりと私を見上げる。
「どこまで転がれるか選手権」
「最高記録は、とり選手の172センチです」
そう言われてみると、二人とも体のあちこちにほこりとか髪の毛とかをくっつけている。
「ちょっと、すごく汚いじゃない」
「それはつまり、この部屋が」
「それはいいから、ほらっ」
とりを持ち上げて、ばふばふと叩くと、とりは気持ちよさそうに「あー」とか声を上げる。
「あー、いいなー。僕も! 次、僕!」
足もとでねこがぴょんぴょん跳ねている。
……まあ、なるようになるのかな。
とりの身体をきれいにしながら、私はなんだか気が抜けて、そんなことを考えた。
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