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今日は姿が見えない。
「ただいまー」
今日は仕事が早く終わったので、ちょっと買い物をしてきたのである。
元気よくドアを開けると、いつもはほこほこと近寄ってくる二つのけものの姿が、今日はない。
「おかえりー」の言葉もない。
あれ、と思って電気をつけ、狭いワンルームを見回すと、お気に入りにしているこたつの隅っこにも、マウントを取りたいときによじ登る棚の上にも、二人の姿がない。
「おーい」
呼んでみるが返事もない。
「どしたー?」
そう言ってこたつの中を覗き込むが、そこにもいない。
「かえったよー?」
二人がいそうなめぼしいところを覗き込んでみるが、やっぱりいない。
「どうしたんだよぅ」
急に寂しくなって、私は部屋をぐるぐると歩き回る。
「出て来いよぅ。さびしいじゃんかよぅ」
一人の部屋が静かすぎて、ちょっと涙が出そうになった。
と、クッションの下からぽこりととりが顔を出した。
「あ、マキだ」
それに続いてねこもぽこんと顔を出す。
「ほんとだ、マキだ」
「何やってんのよ二人とも。そんなところで」
「地底探検ごっこ」
「落盤が起きました」
「いきうめ」
口々に説明するので、クッションの下から引っ張り出して形を整えてあげると、二人とも気持ちよさそうな顔をする。
「あー、やっぱり手羽はこの位置にないとねえ」
「身長が元に戻ったー」
お互いに自分の身体が元通りになったことを喜んでいる。
二人の前に、小さなお皿を置いてあげる。
「あ、なにこれ」
とりが目を輝かせ……はしないのだが、ビーズの目玉が一瞬本当にきらりと光ったように見えた。
「新しい皿だ」
ねこも言う。
「安かったから買ってきた」
私が言うと、二人は短い手羽と腕を伸ばしてハイタッチする。
「やったー。今日からこれでかすみ食べよう」
「そうしよう」
二人が皿を小脇に抱えていそいそとこたつの方に歩いていくのを見ながら、私はようやくほっと一息ついて買ってきた野菜を冷蔵庫に入れ始めるのだった。
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