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今日は何か悩んでいる。
今日のとりはなんだか元気がない。
いつものようにお気に入りのクッションの上に乗っかっているが、その背中に何となく哀愁みたいなものが漂っている。
形も心なしかぺちゃんとしているような気がする。
「ねえ、ねこくん。今日はとりさん、どうしたの?」
いつも一緒のねこが、今日は一人でころころと転がって遊んでいたのでそう尋ねてみる。
「とりさん、将来の心配をしてるんだってー」
ねこはくるんくるんと回りながら答えた。そんなに回って気持ち悪くならないんだろうか。まあ、ぬいぐるみに三半規管とかないか。
「将来の心配って、そんなぬいぐるみが」
ぬいぐるみのとりには別に進学も就職もない。食費もかからないし家賃だって払わなくていい。何を心配することがあるのか。
「いろいろ考えてるらしいよー」
ねこはそう言って、ふこふことうなずいた。
なんだろう。たまに新聞を読んだりテレビのニュースを見たりしているから、地球の未来とか人類の将来とかに思いを馳せてしまっているんだろうか。
ぬいぐるみのくせに生意気な。いや、私より立派と言えるかもしれない。
私はグラスの梅酒をぐびりと飲んで、とりに声をかけた。
「とりさん、何をそんなに心配してるの」
「いや、だってねえ」
とりはふわふわの背中をまたぺこんとへこませて答える。
「今の会社、給料も安いしここの家賃もばかにならないでしょ。今どきは結婚しなくたって珍しくないけど、それならそれで老後のこともきちんと」
なんのことはない。とりは私の将来の心配をしていた。
「そうね。ありがとう」
私はそう返事して、梅酒をグラスに注いだ。
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