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その人物を見た時、片付けようと手にとったばかりのルイさんが飲み干したティーカップを取り落してしまった。
足元で割れたそれを拾う為に震える指先を伸ばした時、その人がそのかけらを一つ拾うのが見えた。日焼けしたその手はいつも近くで見つめていた懐かしい手だった。顔を上げた私に先生が微笑んだ。
「やあ、城山君。久しぶりだね」
入社して九年、一緒に庭作りをし、共にがんばって来た日々が浮かんで懐かしさと同時に悔しさが蘇った。
「どうしてここに」
「探したよ」
森永先生―森永副社長は拾ったかけらをテーブルの上に置いた。背が高くスマートで爽やかなスポーツマン風の男前で、誰もが認める庭園造形家である先生は嬉しそうに白い歯を見せて笑った。
「元気そうだね。ずっと心配していたんだよ。やっと準備が整ったから君に会いに来たんだ」
「準備?」
「妻とは正式に離婚してね、新しい会社を作ったんだ。そこで君ともう一度庭作りをしたいと思っている。どうだろう、私とまた一緒に庭作りをやらないか?」
身を守るように自分の左右の腕に両手を回してそっと抱きすくめた。
「それはどういう意味ですか?」
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