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第一部 序章
その城が破格の値段で売りに出されていると知ったのは上手くいかない求職活動の最中で悶々としていた年明けの雪のちらつく寒い夜のことだ。
ワンルームの部屋。真ん中に置いた安いソファに寝ころがりながらスマートフォンを何気なく見ていた私はリゾート開発を専門にしている不動産会社のネットの記事に目を留めた。ヨーロッパはフランスのロサール地方に幾つか建つ古城のうちの一つである”シャトー・ローズ”が二百万で売りに出されていると書いてある。
いつかはおとぎ話にでてくるような西洋のお城に住んでみたい。物心ついた三歳の私が抱いた初めての夢だったことを思い出した。
近づく者さえいない廃墟のようなお城。―青いトンガリ屋根、白亜の城壁を持つかつては美しかったであろうその城を人は”呪われた薔薇の城”と呼び恐れていることを知ったのは随分後のことであるがーこんなお城を誰が買うのかなぁ。興味本位で物件紹介の動画に映し出された城の様子を見ていたらなんだか今の自分の置かれた状況に重なって見えてきてしまった。
仕事は順調だったはずだ。いや順調だと思っていたのは自分だけだったのかもしれない。先月のクリスマス直前、長年勤めていた造園設計会社の代表である奥様(社長)にクビを言い渡されてしまった。
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