一、初夏、小さな果樹園《ヴェルジェ》にて

7/24
前へ
/222ページ
次へ
バス停に着いて十五分程乗り、ヴェルジェ城近くの停留所に着いた。  城は停留所の後ろ側にあり、黄土色の土壁で囲まれている。時を経てくすんだ色に変化したオレンジ色のとんがり屋根は温かみがあり、横長に建てられた構造が素朴な雰囲気の城だ。  前回、ギヨームさんが城の名前の”ヴェルジェ“は”果樹園“という意味があるのだと教えてくれた。城を建てた十六世紀の王族が果樹をたいそう好む人物であり、今よりもっと多くのスペースを果樹栽培に費やしたことから付けられたのだよと話していた。  その後、現在に至るまでオーナーが幾度か代わり、そのたびに広大な庭はオーナーの趣味によって様々に色を変え、今はギヨームさんのトピアリー好きによってトピアリー・ガーデンが幅を利かせるようになったという。  そのトピアリーが美しいという噂を聞きつけた観光客が多数訪れるようになり、庭は誰にでも無料で開放されることとなり、地元の人も気軽に訪れて散歩するのもまた日常の風景なのだそうだ。
/222ページ

最初のコメントを投稿しよう!

41人が本棚に入れています
本棚に追加