一、初夏、小さな果樹園《ヴェルジェ》にて

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 前回、オリビエさんの車で訪れた時は裏門から入ったので観光用に開かれた正門から入るのは今回が初めてだ。  わくわくしながら正門から敷地内に入ると、クリームオレンジ色のバラである”バフ・ビューティ“のアーチがいくつも設けられた土の道があり、城までまっすぐに続いていた。城の屋根の色と絶妙にマッチしている。意図的に色を合わせて植えた品種なのだとしたら造形した庭師のセンスの良さが感じられた。  歩きながら頭上のアーチから垂れ下がり物珍しそうな顔で私を見下ろしてくるバラ達の健康的な顔を眺めては自然と頬が緩み、よろしくね、と手をかざした。  城までの道の両側は黄緑のツゲが幾何学模様に刈られた広大なトピアリー・ガーデンになっている。近くから見て回れるようにあちこちに遊歩道が作られていて、フランス語と英語で書かれた観光用のパンフレットが遊歩道の入口の丸椅子の上に置かれたアクリル製の透明な箱の中に入っていた。   城の正面玄関まで着くと、大理石の階段を昇って鉄製の扉の前まで辿り着いた。後ろを振り返ってみたら眼下に美しいトピアリー達が私を応援してくれるようにじっと見つめ返してくれていた。
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