一、初夏、小さな果樹園《ヴェルジェ》にて

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 扉の中央に御用の方は鳴らして下さいとフランス語と英語で表記された看板がついている。その下の黒くて丸いボタン式の呼び鈴を鳴らすと、しばらくしてギヨームさんが出て来てくれた。  おはようございますと緊張しながら挨拶をすると微笑み返してくれて、城の裏側にある庭師の作業小屋に連れて行ってくれた。ギヨームさんはそこで仕事の準備をしていた庭師のメンバーを紹介してくれた。皆、私がギヨームさんからもらったのと同じモスグリーンのキャップを被っている。  一人目は二十三歳の女性・アルマ。金縁の丸眼鏡をかけて白い肌に赤茶のそばかすが鼻先に散らばり、栗色のおさげを両脇に垂らし、上に着ているネオンカラーの黄色いTシャツが目に眩しい。まん丸い大きな目に鼻と口と耳にピアスをしている個性的な印象の彼女は小柄でふくよかな女性だった。  二人目はオトュール。二十九歳の男性で真ん中で分けたダークブラウンの髪で切れ長のクールなまなざしに白いボタンダウンのシャツを一番上まできちんと留めた姿はどこかの教師をしているような知的な印象であった。  三人目はマルコ。ギリシャの彫像のような彫の深い顔立ちで金ピカのアクセサリーをじゃらじゃらとつけた黒いピタピタの開襟シャツからのぞく体毛が黒々として逞しく見え、四十七歳でがっしりとした体つきは引き締まっていて体力がありそうな印象の大男だ。
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