一、初夏、小さな果樹園《ヴェルジェ》にて

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 赤茶のレンガ造りの作業小屋の入口は真ん中に鍵穴の付いた両開きの黒い引き戸になっている。マルコさんを見送ってから私も帰ろうと引き戸を開けて小屋に戻った。  小屋の中は左右に棚が二段に作られていて、上段に庭道具などの小型の軽いもの、下段に肥料や機械が綺麗に整頓されて置かれている。中央には屋根付きの電話ボックスのような扉が並んで二つあり、それぞれモスグリーンのカーテンで覆われた鍵付きの空間になっている。マルコさんはそこが更衣室だと言っていたので早速使わせてもらうことにした。  中に入って鍵をかけ、帽子とTシャツを脱ぐ。じっとりと汗ばんだ首元と脇の汗を作業小屋の入口にある水道で濡らしてきたタオルで拭いて、持ってきた替えのTシャツに着替えた。城内には小さなシャワールームがあり空いていればギヨームさんの診療所に行って受付で鍵を借りて自由に使うこともできると聞いた。
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