第一部 序章 

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 理由は奥様の旦那様で世界的にその卓越した造園技術で有名な造園設計士の副社長をクリスマスにわざわざ出張に行こうと誘い、私が誘惑しようとしたというのだ。  もちろん、そんなつもりは全くなく、副社長の方からクリスマスシーズンの北欧のホテルやレジャー施設の庭園造りの様子を視察する為に一週間、泊りがけで行くぞと指示を受けていたのだ。その出張届に待ったがかかり、社長室に私だけ呼ばれ奥様は怒りをぶちまけた。  泊りがけの案件は何も今回だけのことではなく、日頃からあったので面食らった。副社長の出張先も接待先も全国どこでも率先して着いて行くことが多く、総ては早く経験を積んで一人前の造園設計士として認められるようになり美しい庭を作りたい、その一心で同行していた。その夢の為に高校を卒業してから造園技術を見習いながら副社長について技術を磨いて九年、最近やっとメインで任せてもらえる仕事が増えてきていたのに。驚くと同時に信じてもらえないことが悲しくなった。  何もやましいことはしていないし、まして人の旦那様をそんな目で見たことは一度もないと即否定したけれど、奥様は聞く耳を持ってはくれず、貴方が請け負っている仕事はもっとまじめに働いてくれる人員を探すからとにかく降りてとの一点張りだった。当の副社長と話そうとしても普段は自宅で在宅ワークをしている彼と話すことは奥様によって阻まれた。思えば副社長は奥様の父親である会長に気に入られて入社した経緯もあり、彼にとっては奥様の決定に逆らうことは難しい問題なのだろう。
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