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溺れるものは藁にもすがる、とはきっとこんな気持ちを言うのだろう。
私は慌てて、ズボンのポケットを探った。
何かを入れたような気もするし、何も入れていないような気もする。うろ覚えとあやふやの奇妙な世界に包まれながら、私は奇跡的に何か硬いものを探り当てた。
(……あった!)
ポケットの中身のチョコメダル。
友達にひょんなことでもらって、けれどその時は食べる気分ではなかったためにポケットへ突っ込んでおいた。
まさか、これが?
こんなものが役に立つのだろうか。疑いしか感じられない。
————でも。
私は息を吸って、吐いた。
もしも、もしもだ。こんなちっぽけな可能性でも、賭ける意味があったとしたら?
後から考えれば、私はきっと錯乱していたのだろう。
それはもう見事に、恐慌状態でおかしくなってしまっていたに違いない。
けれど、私は必死だった。
だからこその、結果があった。
「……わ、」
私の小さな声を、黒いカニは拾ったようだった。
「ん?」
小さな首を傾げるカニに向かって、私は声を限りに叫んだ。
「わ、我は魔法使いじゃ!……これは我のっ!ののっ、呪いのメダルじゃぞー!!」
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