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“ さっき、辻占いをしてくれた人だ!”
その瞬間だった。
真っ白な雲に襲われたように、私は純白の色に脳味噌を支配されて目を眩まされる。それ以上何も考えられず、あっという間に私は昏倒した。
♢
「……あ。」
私は、ぼんやりと夕暮れ時のアスファルト道路に立ち尽くしていた。
街路樹の桜が枯れている。
放置された自転車が、錆びついたまま転がっている。
……何か、とてつもなく変な夢を見たような。
白昼夢にしては長く、幻にしては現実感のある、不思議な夢を。
私はなんとなく忘れてはならないことを忘れているような気がして、頭を抑えた。
「……でも。」
————どんな内容だったっけかな?
私は、もう思い出せない。
どうしてだか、涙が滲む。だけれど理由がわからない。
「……ぜんぶ、悪い夢だったみたい。」
私はふいに何かを思い出し、ポケットへ手を突っ込んだ。
取り出したのは、金色塗装のアルミに包まれたチョコメダル。昼間、仲のいい友人にもらったのをまだ食べていなかったのだ。
(……美味しい、なあ。)
私の家へと続く平和な道が伸びていた。
(帰ろう。)
甘ったるい味と香りを舌の上で転がしながら、私はゆっくりと日暮れの道を歩き出す。
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