花と導きの魔法

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 芽衣の祖父に会った時もルークは青年の姿だった。政府側から伝達役として来たその人間は、ルークからしてみれば捨て駒として寄越したのだと分かった。その人間は実直に魔法使い達と接し、政府側に不信感を抱く者も居たが主に相手をしていたルークは次第に気に入るようになった。魔法使い達の拠点として用意された洋館でルークはその人間に言った。 「お前、子供が生まれるんだろう? ……そんなに警戒した顔をするなよ。魔法にも占いの類はある」  青年の姿のルークはその人間に丸くて赤いピアスの入った箱を渡して続ける。 「お前の孫が生まれたらこの箱を開けて中のピアスを孫に付けろ。お前の孫は魔法使いだ。生まれつきの魔法使いは稀少で身体の成長が五歳程度で止まるが、その力を一時的に封じる為のものだ。お前は偏屈だの虐待だの言われるだろうが、自分の孫を少しでも人間扱いして貰いたいのなら俺の忠告を聞いておけ。……子供もまだ生まれてないのに、孫が生まれた時に言えだって? その時に話している時間はないだろう。良い出会いもあったが、人間と魔法使いはやはり相容れないのだからな……」  そのすぐ後に魔法使いを支配下に置きたい政府側の強行策により、魔法使い達は世界中に散り散りとなった。ルークは伝達役に別れの挨拶をしなかった。  ルークは芽衣の家の中へと魔法で移動し、眠る芽衣をリビングのソファへと優しく下ろしてポシェットと上着も傍に置いた。ゆっくりとした足音が聞こえ、リビングのドアが開いてもルークは慌てなかった。入って来た人物は凡そ五十年前とまったく同じ姿のルークに目を瞠っていたが、ソファに横たわる孫娘を認めてそちらに駆け寄った。 「芽衣は眠っているだけだ」  ルークはかつての友であり、芽衣の祖父に声を掛けた。 「ルーク……!」  祖父の声が掠れていて後が続かなかったのは流れた年月の所為か、驚いている所為なのか。ルークは懐から手紙を取り出し、芽衣の祖父と目を合わせた。 「お前の謝罪、確かに受け取った」  夕闇が迫る部屋にその言葉が落ちて、瞬きの間にルークの姿は消え去っていた。  祖父は目を覚ました芽衣を叱らないだろう。芽衣が持ち出したあの手紙は“君達にもう一度会って謝りたい”と締め括られていたのだから。
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