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見知らぬメモ
ドンッ!
人通りの多い道を歩いていると、正面から来た黒髪ロングでピンクのコートを着ていた人と、すれ違う時にぶつかってしまった。
「あ、すんませ……ん」
俺は慌てて振り返って謝ったが、人波に飲まれてしまったのかすでに相手の姿はなかった。
人通りが多いとは言え、気を付けて歩けばぶつかるような人混みでもない。もう姿が見えないところを見ると、相当急いでいたのかもしれない。
ずっと道の真ん中で立ち止まっているのも邪魔になるなと思い、俺は踵を返して駅までの道を歩き出した。
ーー
「なんだこれ……」
午前の講義が終わり、食堂で昼ご飯を買うために財布を出そうとコートのポケットに手を突っ込むと、見覚えのない紙が財布と一緒に出てきた。
4つ折りにされている白い紙を自分で入れた記憶はない。
「お? どした?」
一緒に食券の列に並んでいた優正が、ふわふわの茶髪を近づけて来た。
「なんかポケットに知らない紙が入ってたんだけど」
「玲輔が自分で入れたんじゃねーの?」
「いや。ポケットには財布かスマホしか入れない」
「何か書いてんの?」
優正に促されて紙を開く。
A6ほどのメモ用紙にはボールペンで『今夜22時。○○ビル前交差点』と走り書きされていた。
「分けわからん」
「これ、いつから入ってたんだよ。今夜って本当に今日か?」
「俺も今気づいたから、いつからあったのかさっぱりだ」
俺は肩を竦めることしかできなかった。
これが昨日入っていたとしたら、この紙に書かれている日時は過ぎていることになる。
せめて日付を入れてもらわないと……。まぁ日付が入っていたところで、この手紙の気味悪さは消えないけれど。
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