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後日談
テレビでも取り上げられていたあの事件は、殺人事件だったそうだ。通り魔の犯行だったらしい。
犯人は目撃者がいたおかげで数日後に捕まった。
その報道の後、あの時に事情を訊かれた警察の人から少し不思議な話を聞いた。
殺された女性の友人の話によると、あの女性は未来を見る力があったらしい。それは夢で見るそうなのだが、夢のスタートと同じ風景を見てしまったら、そこからの出来事はこれから起こる未来として確定してしまう。
事件があった日のことも、夢で見た未来だったらしい。
あの朝、自分が死ぬ夢を見てしまったことをその友人に話していた。
あの時間にあのビルの前を通らなかったとしても、一度死ぬ夢を見た以上、自分がどこかで死ぬ未来は変わらないと話したそうだ。
いつもは女性の未来予知を信じていた友人だったが、今は仕事の都合で海外にいてどうすることもできなかったのだそう。
女性は夢で見た未来を変えることはできないが、せめて犯人を捕まえるために目撃者を作りたかった。そこで女性は、残された時間で通行人の鞄の中や服のポケットに、例の紙を仕込むことを考え付いた。
そうすることを友人にも伝えていたらしい。
事件がニュースになった後、その時間とその場所が書かれた紙を持っていた人が、数人警察に来たと言っていた。
俺以外にも紙をもらっていた人がいて、だけど俺たちとは違ってただの悪戯だと思ってその内容を無視した人たちがいたのだ。
犯人を目撃したと言う人も、鞄の中に入っていた紙に書かれていた場所に興味本位で来ただけだったらしい。
そしてその夜の22時。犯行現場を目撃してしまったのだ。
俺たちももう少し早く着いていれば、目撃者の1人になっていたかもしれない。
その話を、もちろん優正にも聞かせた。
「なるほどな……。俺の説、意外と当たってたのか」
さすがに優正も素直に喜べないようで、どうしていいのか分からなさそうな顔をしていた。
「ま、でも、お前が狙われてたってのは外れて良かった」
「……素直に喜べない」
「だよな……」
俺たちの呟くような声は、生徒で溢れる食堂に消えた。
了
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