婚約破棄は突然に

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 けれど、先代聖国大公のひ孫でもあるイレーネお義姉様は、これが政略結婚である以上、婚約者が婚約を破棄すると仰るのであれば、嬉々として受け入れる理由がございますの。 「これで心置きなく冒険者を目指すことができますわ」  そんな心底嬉しそうに頬を朱に染めて微笑みすら浮かべて呟かないでイレーネお義姉様。  クロードお兄様は……なぜ婚約破棄を宣言したお兄様が涙目ですの!? 「……ああ。これでキミを縛るものは何もない。……私などの婚約者になってしまったせいで、キミがキミの夢を諦めなくていいんだ」  他の人に聞こえていたのかはわかりませんが、わたくしにはクロードお兄様の呟きが聞こえましたわよ!?  まさか、イレーネお義姉様の夢を応援するために、婚約破棄を宣言しましたの?  おバカですわ。  自分で婚約破棄を切り出して涙目になるくらいイレーネお義姉様のことが好きなら、その手を掴んで駆け落ちして共に冒険者になるくらいなさればよろしいのに。  イレーネお義姉様は……綺麗にお辞儀をして、このままでは会場を出て去ってしまいますわ。  クロードお兄様は……引き留める気はなさそうですわね。  仕方がございませんわ。 「イレーネお義姉さま、わたくしも連れて行ってくださいまし!」  クロードお兄様の代わりにわたくしがそばにいて、イレーネお義姉様に悪いムシが近づくのを阻止いたしますわ!
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