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「どうして、謝るの?美子」
「私、何も言わなかった。貴子が何か言われている時だって、何も言わなかった。うちはお金持ちだったけれど、何もしなかった」
そういう私に、貴子は笑顔で私の顔を覗き込んだ。
「毎日が辛かった私のそばにいてくれたじゃない。私は、美子しか友達がいなかった。高校へ行っても、大学に入っても、合コンに行っても、私をちやほやしてはくれても、取り巻きはいても、私と本当の意味で一緒にいてくれる人はいないの」
天使のように私を覗き込む貴子から、私は目をそらした。
「一緒だね、貴子」
「え?」
「貴子も、私と友達だと思いたいんだよね。自分に唯一いる親友だと、こんな私なんかをそう思いたいんだよね」
私は、天使を突き放した。動揺している天使に、私は銃を突きつけるように手を振った。ぎこちなく、鉛のように重い手は、錆びたロボットのようにしか動かせない。
「もう、終わりにしよう。私たち」
「……」
私が、何もしなかったのは美子が羨ましかったとか、妬ましかったとかでは決してない。私は、クラスの皆にはっきり言えるような、貴子のような性格じゃなかったからだ。
そして、貴子もきっと私のことが嫌いで、復讐するために、今日合コンに呼んだわけではない。
ただ純粋に私を呼んで、彼氏を作ってほしかったんだろう。
でも、私は、私たちは、友達だったら。本当の友達だったなら、そもそもこんなことになってはいないのだ。
居酒屋から出る時、貴子は酷いと糾弾されていたのに、私は何も言わなかった。貴子は、あんなに私のことを庇ってくれたのに。
「ねえ、どうして?私は、美子しか友達がいないの、合コンに呼んだこと怒ってるの?それなら、謝るから」
貴子は、私についてきた。理解できない、納得できないといった様子で、ヒールを鳴らして私についてくる。
「お互い、新しい彼氏作ろう。貴子ならきっとできるよ。今度私が友達と合コン企画するからさ、貴子も是非来てよ!」
私があえて厭味ったらしく、当時のクラスメイトのようにそういうと、貴子は私の腕を掴む手を緩めた。絶望したような表情の彼女を居酒屋にいた人たちを貴子が振り切った時のように、私は貴子を振り切っていた。
「ごめんね、美子」
背中で、泣きそうな声が風に乗って聞こえた。私は、口のうらで「こっちこそ、ごめんね」と答えた。
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