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大型スーパーの一角にアイスクリームの専門店がある。カラフルなフレーバーが並ぶショーケースを覗き込んで私が決めかねていると、横から藤宮がすっと指差した。
「コレとコレだな」
まさに迷っていたふたつをいとも簡単に当てられて、私は驚いて顔を上げた。
「だろ?」
得意気な彼の笑顔に飲まれて何も言えなくなり、黙ってこくんと頷いた。
「490円です」
「はい。…と、あと10円か」
「私あるかも」
ポケットに自販機で使った小銭があるのを思い出した。右手でごそごそして硬貨を掴むと、彼に手渡した。
「何か落ちたぞ」
振り返ると藤宮が何か拾い上げている。
「あ…」
差し出されたのは相原先輩にもらったキャンディ。
白地に赤いイチゴの模様は昔から変わらない。
「懐かしー。おまえコレ好きだったよな」
「…何で知ってんの」
「だって、袋ごとキープしてバリバリ食ってたじゃん」
くくっと笑われて恥ずかしくなった。
掌に受け取ってそのままポケットにしまった。
「食わねえの?」
「…うん。後で。アイスがあるし、楽しみに取っとく」
藤宮は怪訝そうに私を見ていたが、ふっと笑っていつもの口調で言った。
「ホント、好きなんだな」
…私 うまく笑えてるかな
先輩のことを思い出して、胸がちくっとなった。
藤宮に自分だけの秘密を見られたような気分だった。
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