1秒先の君へ

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翌日の昼休み。 トイレから戻ると、藤宮が私の席に座っていた。 「…何してんの」 「席代わって」 「何で」 「ちょっと寝る。次、古典だろ。内山の奴、ボーッとしてっから気づきゃしねえよ」 …意味わかんない。 すでに寝る体制を整えて動かない藤宮に、私は呆れて仕方なく彼の席に座った。 授業が始まって半分ほど過ぎた頃。 首の後ろに何か当たった気がして手をやると、白い小さな塊だった。 消しゴム…? (いぶか)しく思っていると、後から後から(つぶて)が飛んでくる。 広げた教科書やノートにどんどん()まっていく。 寝るんじゃなかったの? 「ちょっと。何」 小声で囁きながら振り向くと、藤宮は頬杖をついて窓の外を見ていた。知らん顔を決め込む彼にもうひとこと言ってやろうと思って、私は気づいてしまった。 指の隙間から見えた横顔が、耳まで赤くなってることに。 何だか見てはいけないものを見てしまった気がして、私は素早く前に向き直った。ひとつ遅れて鼓動が速くなり出した。きっと彼に負けないくらい、私の頬も熱くなってる。 何が起きてるの 私 何かした? 思考が追いつかず、授業なんてまるで入ってこない。 のんびりと眠りを誘う内山先生の授業は、優しいBGMのように、ただ流れていく。 そのあと、授業の終わりを告げるチャイムが鳴るまで、消しゴムは飛んでこなかった。
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