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「里実!!」
病室のドアを勢いよく開けた。ベッドに寝ている里実の体がびくっとしたのがわかる。配慮が足りなかったけれど、そんなことを気にする余裕はなかった。
里実が交通事故に遭ったのが1週間前。手術は成功したが、すぐに目を覚ますはずもなかった。叶うならずっと側に付き添っていたかったが、そうするわけにもいかない。毎日仕事を早めに終わらせて病院へ通った。この1週間の記憶は曖昧で、本当に1週間が経ったのかすらわからない。今日も気が気でないまま仕事をしていたところ、里実の意識が戻ったと連絡があって急いで来たのだ。
里実の頭には包帯がぐるぐると巻かれており、何度見ても痛々しい。無事でよかった、とは言い難い状態だけど、とにかく目が覚めて良かった。生きていてくれて、本当によかった。
「目が覚めて良かった…本当に心配した…」
里実に近づくと、強い力で里実の手を握った。里実は困惑した表情をしている。強く握りすぎたのかも知れない。もしかするといきなり押しかけてきたことを迷惑に思っているのかも知れない。
「あ、あの!えっと、その…」
里実は口籠る。視線が泳いでいる。何を言おうとしているのか、僕にはまるでわからなかった。
「大丈夫?ゆっくりでいいから話してみて。」
優しく声をかけると、里実は大きく息を吸って、視線を僕に合わせた。
「ごめんなさい。私、思い出せなくて、、」
衝撃のあまり、僕は固まってしまった。
何か言わなきゃ。里実が困るだろ。わかっているのに、口は開いているのに、思うように動かなかった。頭が追いつかなかった。
「里実さんのご家族の方ですか?」
どれくらい時間が経ったのだろう。看護師さんが入って来て、ようやく僕は動くことができた。
それから看護師さんから詳しい話を聞いた。里実が事故の衝撃で記憶喪失になってしまったこと。どこまで覚えているのかまだ把握していないということ。無理に思い出させようとしないで欲しいということ。いつ記憶が戻るのか、そもそも記憶がちゃんと戻るのかわからないということ。
僕は他人事のように聞いた。やっぱり信じられなかった。こんな状態で里実に会っても、困らせてしまうだけだと思った。その日はそのまま帰った。
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