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招かざる客
「きゃあぁぁっ!」
叫んでから、思わず手で口を覆う。
取り込もうと手をかけたシーツは、切り裂かれ、血文字が書かれていた。
「出テイケ」
シーツに描かれた突然の悪意。
身体が小刻みに震える。
上げた悲鳴に、希一と充希が走って来た。
「どうしたの?」
景子が指さしたシーツを見て、二人とも一瞬声を失う。
中学生とは言え、突然向けられた憎悪に戸惑い、恐怖を覚えたのだろう。
充希も父、希一の腕を握っている。
「誰が……こんなことを! 警察を呼ぼう」
希一が顔を強張らせて言う。
「どうしたんだね?」
景子の悲鳴を聞きつけて、隣家に住む浅子弘がやって来た。
浅子は不動産業を営み、この地域の自治会長を務めている。
空き家が多くなってきたこの地域への転入に注力しており、希一が家を購入する際にも、購入時の値引きをしてくれたり、地域へ溶け込めるように、住民に一緒に挨拶してくれるなど、尽力してくれている人物だった。
「これは、ひどい。一体誰がこんな事を……」
浅子は刻まれて血文字が書かれたシーツを見つめて呟いた。
「とにかく、警察を……!!」
スマホで連絡しようとする希一を浅子が止めた。
「いや、警察を呼んでパトカーが来ようものなら、このあたりは大騒ぎになる。変化を好まない住民も多いから、警察を呼べば、自分等が疑われたと思うヤツも出て来るだろう。それは、あんた方がここで生活しづらくなるだけだと思うが……」
「……ですが、こんな事をされて黙っていられませんよ!」
声を荒らげる希一の腕を、景子がそっと押さえる。
越して来たばかりで警察が来たら、田舎町ではすぐに噂になるだろう。
閉鎖的な年輩者も多くいて、転入者を望まない者もいると聞く。
転入してすぐに騒ぎを起こせば、「そらみたことか」と言われるだけかも知れない。
浅子の言う事にも一理あると思われた。
「希一さん、この件は儂に任せてくださらんか? 交番には儂からも話しておく。巡回を増やして貰おう、だから、頼む、希一さん」
転居時に世話になった浅子が頭を下げるのを見て、希一が躊躇した。
景子は、希一に頷く。
「……じゃあ、今回だけは。そうします。……が、次にこんな事があったら、俺は通報しますよ、浅子さん」
渋々と言った体で承知した希一に、浅子は再び深々と頭を下げた。
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