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新居
手狭だからという理由で、結婚と同時に一戸建てを購入した希一が、嬉しそうに景子に間取りを説明する。
「ここが僕と君の部屋、隣は陽希、その向かいが充希の部屋。奥の部屋は……ごめん。僕の書斎って事にしておいて。充希にとって、必要な部屋なんだ。……その。景子のことを除け者にするつもりはないんだけど、その。何と言うのか……」
希一が言葉を濁す。
景子は頷いた。
「涼菜さんの物が置いてあるお部屋ね。陽希くんと充希くんにとってはいつまでもお母さんだもの。恋しいに決まってるわ。私はそのお部屋に入らないでおくわね」
「ありがとう、景子。いずれ、変わると思うんだけど」
希一の言葉に景子が微笑む。
「淋しくないと言ったら嘘になるけれど、時が解決してくれると思うわ」
自分に言い聞かせるように、穏やかに言葉にする。
子育ては思い描くような甘いものではないだろうけれど、大切な息子を残して逝かなければならなかった涼菜の気持ちを思うと、二人を元気に育てたい、と強く思った。
キッチンに戻ってパンケーキを焼く。
子どもたちのおやつにしようと思ったからだった。
充希はこれから塾で少し遅くなる。
陽希は遊び疲れてソファで居眠りしていた。
夕飯に影響がないように、小麦粉少なめ。
代わりに卵白をしっかり泡立てて、ヨーグルトを混ぜる。
ふんわりとスフレ状に焼き上げ、自分でも満足している時、不意に背後に気配を感じて振り返った。
「景子さん……」
遠慮がちに声をかけて来たのは、充希だった。
「外、雨降って来そうだよ、僕、洗濯物入れてこようか」
「充希くん、ありがとう。大丈夫よ、私に任せて。充希くんは塾があるでしょう? 軽食、用意してあるから、食べて行って」
「ありがとう」
はにかんでお礼を言う充希と微笑み合う景子。
遅れてキッチンに入ってきた希一が二人の様子を見て、嬉しそうに茶化した。
「なんだ、なんだ仲良しだなぁ、父さんも入れてくれよ」
笑いながら洗濯物を取り込みに、庭に出た。
今日はシーツなども干してある。
清潔にパリッと乾いたシーツを張ったベッドで、きっと気持ちよく眠れることだろう。
「…………!!!」
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