忍び寄る影

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忍び寄る影

 コトン、コトン。  どこからともなく聞こえて来た音で、景子は目を覚ました。  枕元の時計を見ると、午前2時10分を指している。  夫の希一は隣で寝息をたてている。  子どもたちのどちらか、起きているのかしら?  景子はそっとベッドから起き上がると、スリッパを履き、寝室を出た。  子どもたちも眠っているのか廊下は静まり返っている。  念の為、充希と陽希の部屋を順番に覗いてみる。  二人共、ベッドで布団にくるまり、すうすうと寝息をたてている。  起こさないように注意しながら、二人の部屋の扉をそっと閉める。  数日前、シーツが切り刻まれ、血文字が書かれたシーツは浅子の手により、交番に届けられた。  その結果、血文字ではなく血糊だということも判明した。いたずら、ということで様子を見ることになっている。  そんな事が起きたからナーバスになっているのかしら。  気の所為だったのか、と思いながらその場に立って聞き耳をたてると、階下から小さくコトン、コトンと物音がした。  気持ちのせいではない。きちんと聞こえてくる。  泥棒?  一瞬、希一を起こそうかなと思ったけれど、日中働く希一を寝かせてあげたい気持ちが優先した。  そっと階段を降りる。  一番下の段まで降りると、そっとリビングに向かおうとした。  その時、キッチンの擦りガラスの向こうに白い影が映った気がした。  声を上げないようにそっとキッチンに向かう。  リビングとキッチンの境目を通り過ぎた時だった。  グッと何かが首に引っかかった。  首が締められて、息ができない。  何か、強い力で首を締められている。  景子は、締め付けているものを取ろうと藻掻いた。  苦しくて、声も上げられない。  何? 何故?  自分が襲われる理由も分からずに、朦朧とする意識の中で、景子は、白い物がニタリ、と笑った気がした。  
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