1058人が本棚に入れています
本棚に追加
素性
「稚奈さん。何だったんです?」
仕事場である研究所に戻ると、同僚である沢田君に尋ねられた。
「うん……ちょっと。はあ……」
フラスコを机においた彼は私を見て言った。
「ろくな話じゃなかったんですね。稚奈さん、もっと強く出てもいいのに……」
「え?」
「社長は稚奈さんに株を遺言で半分近く譲渡したんですよね。だったら、何も副社長達の言いなりになる必要なんてないですよ」
驚いた。沢田君は話を聞いていたんだろうか?
「聞いてたの?」
沢田君はため息をついた。
「やっぱりね。そうじゃないかと思いました。何かうちの会社のことでしょ?最悪売却とか合併とか……」
びっくりする。鎌かけられたのか。それにしても鋭い。さすが、お父さんが次の室長候補と言っていただけのことはある。
「あの人達は、よくわかってませんからね。今どういう研究をしていて、先々何を考えて我々がやっているか……お金の問題もそれに関係してますけど」
「確かにそうよね……」
「それで、どうするんです?何があったかよくわかんないですけど。僕に相談して下さいよ。力になります」
最初のコメントを投稿しよう!