素性

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「うん、ありがとう。でも、まだ自分で出来ることがあるかもしれないから考えてみる」 「そうですか?一人で抱え込まないで下さい。稚奈さんの悪い癖ですよ。社長も言ってました」 「……そうだね」  私は父と母が離婚した頃、まだ小学生だった。母がいなくなって、何かあっても忙しい父には言えなくなり、誰にも頼らず自分で解決する癖がついた。  離婚を決めた母は、私を連れて行きたがったが、私はついていかなかった。  なぜなら、父の周りにあるこういったビーカーやフラスコ、顕微鏡などが大好きだったのだ。小さい頃、父に顕微鏡を見せてもらって虜になった。  物心つくとそれがいじりたくてしょうがなかった。一度、落として割って怪我をしてから、父は私に見せていた本物ではなく、おもちゃの顕微鏡や割れないビーカーを与えた。でもそれは偽物だと子供心にわかっていた。  いつか、父の周りにいる人のように、白い服を着て試験管を目の前でフリフリするんだと決めていた。私は、変な話、母についていくとその世界から離れるとわかっていた。  母は私をおいて出て行った。そして、他の人と一緒になり、今は別な家庭を持ち、子供もいる。
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