素性

3/6
前へ
/68ページ
次へ
 私は母の代わりに家事をこなし、大学に進学した。  そして、ようやくこの世界に入った。父はとても喜んでくれた。でも、そのときにはもう、父の身体は病魔がむしばんでいたのだ。  父が入院して余命宣告されたとき、病室にひとり呼ばれた。 「稚奈」 「はい」 「京介君を覚えているか?」 「はい、もちろん。私はあれ以降会えなかったけど、来てたの?」 「ああ。彼はね、電話が多いんだ。あのときは僕を心配して珍しく来てくれたんだよ。でも稚奈にあの時紹介して良かった」 「京介さんって何をしている人なの?すごいイケメンだし、なんというか、雰囲気が普通の人とは違う……」 「彼は私の教え子だと言っただろ?今彼がどういう仕事についているか教えていなかったな」 「だって、京介さんも教えてくれないし、お父さんも教えてくれなかったでしょ。でも車の迎えを待っていたくらいだから、そういう身分の人でしょ?」 「そうだな、ただうちに来るときは必ず隠れるようにしてひとりで来ていた。彼がうちを気遣ってくれているからだ。だが、それももう終わりかもしれない」 「え?」
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1058人が本棚に入れています
本棚に追加