素性

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「……ああ、そうだ。お前は彼が大好きでね。ヨチヨチしながら彼の服を握っていた。彼は小学校二年生くらいだった。お前と六歳違いだったんだ。お前をとても可愛がってくれたんだ。お前の母はそれを見るのが辛かったようだった」 「そう。そういうことだったのね。お母さんには本当のこと話したの?」 「栞たちが出て行って、京介君が高藤の息子だとわかっても、お母さんは信じていなかった。離婚したいと言われた。まさかお前が私のところに残りたいと言うとは……彼女に新しい家族が出来てよかった」 「……お父さん」 「今の話を頭の隅に留めておいてくれ。それと、弟夫婦にその秘密は教えていない。お前の叔父だがあれは短絡的だから、何をするかわからん。私の死後、お前は自分の考えに従いなさい。いいね」 「……そんなこといわないで、お父さん。でもわかった。教えてくれてありがとう」 「さすが稚奈だ。お前ならどこの研究所に行っても大丈夫だ。頑張るんだよ」 「……お父さん」  泣きながらベッドの父にすがりついた。私はその遺言を守ろうと心に決めた。
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