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「さてと。副社長とその奥様。稚奈さんの事は、昔から先生にお願いしていましたので、僕は彼女へのアプローチの権利を取得済みです。ま、もちろん、彼女が嫌だと言えば無理強いはできません。面倒な家なもんですからね。でもそれを何とかする予定ですけど……」
「高藤さん、どういうことですか?どうして株を……」
「まあ、ご存じないでしょうね。隠していましたし、私のことも知らないでしょ?私は彼女の父親である先生と稚奈さんに大きな借りがあります。生涯かけて返しても返し尽くせないかもしれない。でも、やるしかないです」
「京介さん。無理しないで。お父さんも心配していたの」
「稚奈さん。あとでゆっくり話そうね。とにかく、お二人は手を引いて下さい。巻き込まれたくないでしょ?父と私の戦いに……」
「そんな、サインしてしまって今更……」
弁護士が言った。
「あとのことはお任せを。どちらにしろ、あちらの買収がうまくいかなければそこまでですが、契約破棄を希望するならば、株を京介氏に預ける方法もあります」
「それは……」
言いよどむ叔父夫妻を見ながら、京介さんが言った。
「まあ、それについては今後の行く末を見て連絡さしあげます。今日はここまでにしてください。稚奈さんは私がおくります。お引き取りを……」
ふたりはそそくさと出て行った。そして、古川弁護士は京介さんに『頑張れよ』とひとこと言って、私を笑顔で見ながらいなくなった。黒子のような人も出て行った。
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